●「潤滑油」とは

機械の接触部に生じる摩擦の力や熱を少なくするために使われる油で、潤滑油が切れると工場が止まる、といわれるほど生産現場に欠かせない製品です。ENEOSでは現在2,000銘柄以上の製品を取り扱っています。

潤滑油の代表的な製品には自動車用のエンジン油やギヤ油、工場の設備で使用される油圧作動油、金属加工用の切削油、熱処理油などがあり、原材料は「ベースオイル」と「添加剤」です。

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● 最近の情勢変化~厳しさを増す調達環境~

原材料は世界中から調達しています。近年は調達を取り巻く環境に異常事態が生じやすくなっており、ウクライナの紛争や米中経済対立等の国際情勢、2021年に世界の主要添加剤メーカーが集中するテキサス南部を襲った寒波の影響が今も続いています。

こうした情勢を背景としながら、①海外サプライヤーからの値上げ要求、②中国や新興国の需要増、工場のストライキ等による商品不足、③コンテナ船事故や通関等の輸送トラブルによる原材料不足が発生します。不足の理由を分析し、限られた原材料をどのように割り当てるかの判断が必要となります。また、チャーター便により空輸など、的確に対応して供給していくことが求められます。

2021年3月に、エジプトのスエズ運河で巨大なコンテナ船が斜めに座礁し、運河が1週間にわたり封鎖されてしまう事故がありました。

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「エジプト・スエズ運河」 写真の運河で全長400mのコンテナ船が斜めに座礁し、航路を封鎖する事故が起きた

この事故の際は、封鎖により運行スケジュールに遅れのでているコンテナ船の動静や積荷情報を収集しながら、供給影響を受ける添加剤の確認に追われました。
幸いにして、欧州など遠方で製造される添加剤を、消費地域に近いアジア製造品に変更する等、これまでの取り組みが功を奏し、大きな影響を回避することができました。

また、2021年2月に起きたテキサス州の大寒波では、添加剤やその原材料の生産が止まり、複数のメーカーから「フォースマジュール(不可抗力による供給停止)」が宣言されて製品が契約どおり納品されないという前代未聞の事態が生じました。その際は、真にエッセンシャルな需要を見極め、優先順位をつけて供給し、ライフラインを守りきる、というタフな対応を迫られました。

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今後も、国際情勢を含め様々なトラブルが想定されますが、日々の情報収集を続けながら、安定供給を図ってまいります。

●安定供給に不可欠な国際競争力

製品の安定供給の維持には相応のコストがかかりますが、コストを上げ続けて製品の値段が高くなってしまえば、本当は製品を買いたいけれども買えない人たちも出てしまいます。

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「ENEOSのバリューチェーン」

一方で、コストを上げず安さだけを重視した取引を続けていても、国際情勢の大きな変化など有事の際にはサプライヤーから取引に応じてもらえず、最終的には製品を供給してもらえない恐れもあります。要するに、何事もバランスの見極めが重要で、国際競争力とは、コスト・品質・供給、全てのバランスが求められるものだと捉えています。

現在も、ENEOSでは製品を安定的に供給するために、世界と競争を続けていますが、値上げの理由の多くは原材料の安定調達、運送業者の安定的な確保にかかわっています。

潤滑油の調達のためには、海外メーカーとも競争しなければなりません。ここ数年は中国や東南アジア、アフリカ等の新興国が成長を続けて経済力が上がり、日本の購買力の優位性が相対的に低下してきています。

「大量に購入するから製品1つあたりの単価を下げて欲しい」という取引は往々にして行われていますが、「日本よりも高い売価で購入してくれる国はある。それ以上の価値を評価して欲しいし、かつ高騰している輸送費も認めて欲しい」と言われているのが今の状況です。また、高品質な製品の生産には、適切な労働環境の確保も必要です。

値上げ=悪ではありません。ただ、中には、いわゆる便乗値上げのような適正とは言い難い値上げもあります。値上げの適切性についてしっかりと見極めながら、顧客に丁寧に正しい情報を説明していきたいと考えています。

また、経済連携協定に基づく関税率も踏まえながら、潤滑油の製造地域を吟味しています。日本の生産設備は老朽化が進むものもある一方、中国では最新の設備が整えられ、10年前とは様変わりしています。他方で、少量でも日本でしか作れない製品のニーズもあります。供給の拠点も国際情勢やニーズに合わせて対応しています。

ENEOSが生産・供給できなくなれば、海外から高いものを輸入するしかなくなるかもしれません。そうした事態にならないよう、適切なコスト負担を含め、国際競争力の維持・向上を図り、安定的な供給に努めてまいります。

●国際競争力を高める取り組み

国際競争力を高める取り組みの一つとして、研究開発部門による代替処方(潤滑油のレシピ)も開発しています。

A社の添加剤の調達が国際情勢によってままならなくなった場合、B社やC社の添加剤でも替えが効くような処方を持っていれば、製品の供給自体を止めてしまうケースを防ぐことができます。ただし、そのためには、A社だけではなくB社やC社とも日頃から取引をしていなければならない。そのため、コストは最安値、とはいきませんが、間違いなく品質や安定性が高まることにはつながります。

また、原材料の計画的調達には引き続き取り組むとともに、処方の共通化による効率化にも取り組んでいきます。自動車メーカーでは「プラットフォーム(シャーシなどの骨格部品)の共通化」が進んでいますが、潤滑油についても、1種類で複数の潤滑油の機能をもつことができれば、使用する添加剤の種類や量、コストを減らすことができます。環境負荷の点からも、共通化・効率化は重要と感じています。

ENEOSでは「2040年長期ビジョン」を策定し、ありたい姿として「脱炭素・循環型社会への貢献」を掲げており、潤滑油でも製品ライフサイクル上におけるCO2排出量を抑えた商品「カーボンリデューシング商品」と「低炭素商品」を開発しております。

「カーボンリデューシング商品」とは、いわゆる省エネ・低燃費・長寿命の商品を指しますが、燃費も良くなり、廃油やCO2を削減できます。この分野の開発力は業界でもNo1と自負しています。

「低炭素商品」は、植物由来基油や再生ベースオイルなど,ライフサイクルにおけるCO2排出量を従来よりも削減した原材料を採用した商品です。2022年4月に植物由来基油を採用した潤滑油・グリースの開発に成功し,現在商品化に向け準備を進めています。

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再生ベースオイルについては、当社が提案した「廃潤滑油を活用した潤滑油ベースオイルへの再生プロセス構築」が環境省のマテリアルサイクルに関する公募事業に採択されています。現在、事業化に向けての検討を開始しています。まだまだ長い計画になりますので、今後の商品化に向けてしっかりと取り組んでいきたいと思います。

ENEOS株式会社 潤滑油カンパニー

ENEOSは、2001年7月に誕生し、今日まで広く社会 に浸透し、愛されてきたブランドだと思ってます。「ENERGY/エネルギー」と「NEOS/ネオス(ギリシャ語で新しい)」という二つの言葉を組み合わせた造語で、さまざまなエネルギーのメニューを取りそろえ、 お客様一人一人に満足をお届けしたいという想いを込めています。

 

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