―コーヒーショップ「ベルベット・コーヒー(旧:ベルベット・コネクション)」を立ち上げたきっかけを教えてください。

私は大学院で文化人類学を研究していましたが、その一環としてフィリピンに行く機会があり、現地の小規模農家の素材で作られたコーヒーを飲んだ際、その美味しさに驚きました。

日本では決してメジャーではないコーヒーでしたが、この美味しさが世界中に広がっていけば非常に面白いと考えたことが、ベルベット・コーヒーを立ち上げたきっかけになりましたね。

エシカルコーヒーの目指す先-消費行動が変われば経済も変わる

そこに加えて、私自身が大学でフェアトレードやエシカルといった分野の勉強をしてきたことで、「フェアトレードやオーガニックといったエシカルなコーヒーを取り揃える」というショップのコンセプトに繋がり、今に至りました。

 

―「エシカルなコーヒー」とは、具体的にどのようなコーヒーになるのでしょうか。

「エシカル」と一言で申し上げても色々な意味がありますが、私の場合は"生産者の人権や労働環境を尊重した商品を取り扱いする"という意味で、エシカルという言葉を使っています。

また、商品がエシカルか否かという客観性については、国際フェアトレード認証を一つの基準にしています。それ以外にも、小規模農家が集まった生産者組合において、個別の農家に対して売り上げの一部を還元しているなど、現地の情報を見て総合的に判断したうえで、商品を取り扱うこともあります。

ただ、その商品がエシカルとして優れているかも大事ですが、コーヒーの価格(コスト)や味(クオリティ)のバランスも必要です。

フェアトレードやエシカルを根底にビジネスをスタートされる方も多いかと思いますが、コーヒーは嗜好品である以上、「エシカルだから」という理由だけで買っていただくことは非常に難しいです。

ビジネスとして、美味しいコーヒーを求めているお客さまに買っていただきたいという前提はありながらも、ビジネスをする個人としての責任も果たして行きたいという意味で、エシカルなコーヒーを提供しています。

エシカルコーヒーの目指す先-消費行動が変われば経済も変わる

 

―「ビジネスと人権」について、国内外での関心も高まりつつありますが、その現在地について、どのように感じられますか。

エシカルやSDGsなど、キーワード自体はメディアを通じて広がって来ましたが、まだまだ一人歩きの部分は多く、国際的なニュース等についても事実や印象ばかりが先行しています。その結果、求められるアクションについてはまだまだ発信が足りていないのが現状ではないでしょうか。

例えば、A国がB国に軍事侵攻をしているけどそれは悪いことで可哀そうだと思う、という論調や考えはいくらでもあるかと思いますが、それに対して、A国産の原油を使っている会社の商品は買わないようにしましょう、というメッセージは世の中であまり発信されていません。

コーヒーを買うにしても、ガソリンを買うにしても、そのお金が流れる先はある程度予測が出来ますので、自分が払ったお金がその後どのような形で使われていくのか、そういったところにまで消費者の責任は伴うのではないでしょうか。

 

―消費者がフェアトレードおよび人権問題等について理解したうえで、アクションを起こしたりするには、どのようなことを意識すれば良いでしょうか。

消費者の方におかれてはまず、「個人が買い物をする上で、責任をもって買い物をしていただきたい」と思います。

これが責任という言葉なのか、エシカルという言葉なのかは分かりませんが、それこそガソリンを買う時は「B国との問題が解決されない限り、A国産の原油は使いません」と宣言するなど、ビジネスと人権に取り組んでいる会社の商品・サービスを選ぶだけでも、個人で責任を果たすことに繋がります。

このように消費行動を変えていく人が日本国内で増えていけば、経済の在り方も大きくかえることが出来ます。

私も子どもがいる親として、自分の行動には責任を持ちたいと思っていますし、一人のビジネスパーソンとして、自分がビジネスで取り扱っている商品にも責任を持ちたいと思い、エシカルなコーヒーを取り扱っています。

エシカルコーヒーの目指す先-消費行動が変われば経済も変わる

 

―今後の活動の構想・取り組みたいこと・野望について教えてください。

アフリカや南米などの現地に訪問をして、エシカルやフェアトレードへの取り組みでどれだけの効果が生み出されているかの調査をしていきたいと考えています。

非常にざっくりとした「フェアトレードの取引により小規模農家の売上が上がりました」というストーリーは発信されていても、それは生産者団体の中でどれぐらいの割合なのか、更に個別の農家の方々の給料がいくら上がったのかなど、細かい調査データはなかなかありません。

私はブログやホームページで、フェアトレードの背景にある、発展途上国のビジネスに於ける社会問題・人権問題について調査したレポートのほか、海外のコーヒー生産者さんを現地訪問した際のレポートなどを掲載してきました。

例えば、インドネシアを訪問した際の調査では、フェアトレード・オーガニックであるコーヒー豆と、そうではないコーヒー豆の買い取り価格を比較した結果、フェアトレード・オーガニックを実践しているコーヒー豆のほうが高く買い取られており、農家さんにも還元されていることが分かりました。

今後も取り組みを継続する形で、数値化が可能なものは数値化したうえで、現地の人がどのように関わり、フェアトレードでどのような効果が生まれているのかを調査したうえで、消費者の方々にもブログ等で伝えていきたいと思います。

そのうえで、やはりコーヒーの専門店としては、お客さんに美味しいと言っていただけるコーヒーを提供し続けたいですね。

お店に来ていただける方、卸売りで取引のある方など、当店のコーヒーを買っていただく方を増やすこと自体が、エシカルな行動をする方々を増やすことにもつながっていきます。また、私自身が継続して活動をしてきたことで様々な質問を受けて、説明をする機会も増えてきました。

決して広い範囲とは言えないかもしれませんが、個人のコーヒーショップとして、自分の手の届く範囲の皆さまに対しては、エシカルやフェアトレードのことを引き続き伝えていきたいと思います。

河村 拓/ベルベット・コーヒー

あなたの「ベスト」が見つかるコーヒーロースター。自社輸入による豊富なラインナップを、お好みの焙煎度合いで全国にお届け。コンテスト受賞豆やコスパに優れた定番から、フェアトレード・オーガニックなどのエシカルコーヒーにも力を入れています。

 

 

エシカルコーヒーの目指す先-消費行動が変われば経済も変わる

※画像はインドネシアのスマトラ島にてコーヒーの生産者を訪問した際に撮影。