わたしが思う"エシカル消費"とは

私にとってのエシカル消費とは「無理しないまでもエシカルであることを意識する」消費です。意識しないと世の中のことが分からないし、変わらない。でも無理せずに続けるようにします。

消費ってなんでしょうか?私は、(残念ながら毛皮や宝石というよりも)行きつけのスーパーで夫や子供の最近の調子とそれぞれが食べたものを思い出しながら、これから数日分の食事の材料を買うことを思い浮かべます。できるだけ短い時間で、店先にある今日の商品を見比べながら、定番の食品からその日のプチ贅沢な食材まで、あれこれと買い揃えます。最近大学に進学した娘が家を出るまで、多い時には夫と三人の子供と近くに住む自分の両親を含む大家族の食事の準備を考えていました。

正直なところ、一度にスーパーの買い物カゴ二つ分の食材を買うにあたって、有機農業の野菜だけ、フリートレードの食品だけ、あるいはそれを優先して、と考えるのは無理です。とにかく量と種類の確保を優先してしまいます。

しかし、逆に言えば、エシカルな商品が増えれば、量と種類の確保もできるようになります。手に届くところにあるかぎり優先してそれを選び、そのような人が増えれば、いずれ私も簡単に家族の食材をエシカルなもので揃えることできるでしょう。そのように意識をしていくことはとても大事な消費者としての態度だと信じます。

長らく外資系金融でESGの活動

私の経歴は、新卒から外資系の金融でした。25年近く金融界にいましたが、外資系生活の最後の頃、2016年から、 ESG(環境・社会・ガバナンス)を取り入れた投資が活発化してきました。私は、国内でESGの動きが始まった当初から関わってきました。ピークには、投資先の企業と年間200社ぐらい話をし、その2割ぐらいが経営トップや取締役会の方でした。

つまり、私のこれまでの仕事は、株主として投資先企業の経営陣と、脱炭素などの環境問題・社会課題の解決、それを進めるためのガバナンスについて対話をすることでした。直接的に環境や人権の維持・改善を目的に活動するのではなく、企業に適切に活動してもらうように株主を代表して対話する仕事をしていました。

小野塚惠美さん

個人の対話への参加に取り組む

運用会社でプロとして企業と対話してきましたが、年金や投資信託の「最終受益者」つまりお金の出し手(将来消費するお金です)として、普通の個人が企業とエンゲージメントするために何ができるかを考えています。個人の立場というのは、投資家にもなれますが、消費者であり、一市民であり、さらには会社の従業員であったり、取引先になったりと「日本の上場企業」と色々な関わりを持っているのです。

対話ということを難しく考えすぎず、それぞれの立場にあった行動をとることで、意見表明になると考えます。

例えば、環境に負荷をかけている会社や人権を軽視した製造現場を運営している会社の製品を買わないことは、消費者としての意見表明になります。年金や投資信託の最終受益者としては、実際に年金の受給者として声をあげることが、年金の運用に影響を及ぼすことになります。年金の掛け金を拠出してゆくゆくは年金の受給者となるカリフォルニア州の職員や教員が、自分たちの年金がどのように運用されるかに対して意見を述べた例があります。

私は、エシカル消費とは「無理しないまでもエシカルであることを意識する」消費だと言いました。ESG投資も、最終受益者である一人一人が「無理しないまでも環境や社会課題に配慮することを意識」し、声を上げていく投資になっていくと信じます。自分の将来に向けて行動し、実現したい未来を実現するために投資家、消費者、会社員としてできるところから、あなたも声をあげてみませんか?

今後取り組む「科学と金融」で日本を変える

技術を知るよい経営者になりたいと思って東京理科大学大学院のMOT(経営技術修士)を2022年3月に修了、技術と経営について学びました。さらに金融庁のサステナブルファイナンス有識者会議のメンバーの有志で勉強会を繰り返し、環境や社会課題を解決するサステナブル(維持可能)な経営とそれを支える株式投資などのファイナンスのあり方を考えてきました。

そうすると、課題解決の鍵の一つが、高度技術であることに気づかざるを得ません。高い技術を持つ学者などが起業する難しさや目利きの資金提供者の不足などが複雑に絡み合い、なかなか成果が出ないと感じて、科学・技術と金融を結ぶ社団法人「科学と金融による未来創造イニシアティブ」(FDSF)を立ち上げ、代表理事となりました。テーマとしては、賛同者たちが交流する場を作り、それからリスキリングとも言われる人作り、そして実際にお金を回していくという意味での未来の投資をテーマにしています。最初のカンファレンスを2022年7月に行い、各界から約250人の幅広い参加を得ました。

今後も、FDSFをハブに、色んな団体とコラボレーションしていきたいですし、サステナブルファイナンスに関わる専門人材のスキルの高度化や、スキルの流動性を高めるコミュニティを広げていきたいと思い、今は準備中です。

みなさんが消費者として、家族が我慢せず喜んでくれる食材などの商品の多くが環境や社会を維持可能にするものとなり、しかも簡単に手にすることができるように、科学や技術が進んでいく一助となりたいと考えています。

小野塚惠美

エミネントグループ 代表取締役社長CEO
一般社団法人 科学と金融による未来創造イニシアティブ(FDSF) 代表理事

グローバルな金融機関で25年、機関投資家として20年以上の経験を有し、専門分野はサステナブルファイナンス(ESG、インパクト投資)

ESG、サステナブル投資などに関する有識者アドバイザリー、イベント企画運営、講演・執筆活動を通じて、価値共創に邁進している

 

小野塚惠美