坂口真生さんが思う“エシカル消費”とは?

エシカル消費はみなさんにとって身近な言葉になってきていますか?

エシカルは、サステナブルやエコなどの“おおもと”となる考え方なので、かなり広い観点が入る分、わかりづらく感じてしまうかもしれません。場合によっては「エシカルはよくわからない、とっつきづらい」と言われることもありますし、「エシカルって何?」と言葉自体の意味を聞かれることも、普通にあるかと思います。

サステナビリティやロハスなど、似たような言葉はいろいろありますが、エシカルは地球環境や社会貢献につながる「やさしい選択」という意味で、行為そのものや、価値観や概念みたいなものになります。

オーガニックコットンを使う、フェアトレードを取り扱う、有機のものや無添加のものを選ぶなど、具体的な目標のあるSDGsに比べると抽象的な言葉かもしれません。エシカルはそのような具体的な目標を立てるとき、選択をするときの「基盤になる気持ちや、概念のこと」を指します。

ものを買うときにその背景を考えながら買い物をする、“エシカル消費(=人や社会、環境のことを考えた消費活動)”というのも、ほぼ同義となります。例えば、ペットボトル飲料を選ぶのではなく、マイボトルに飲み物を入れて持ち歩くことで、プラスチックごみの減量につながりますよね。個人の選択が環境問題にも関わってくるので、今広まりつつある概念だと思います。

また、エシカル消費とひとことで言っても、消費者庁の「マイエシカル消費」のページにあるように、ファッション、雑貨などを扱う企業から、学校や官公庁、投資などに至るまで様々な領域がありますよね。まさに今、エシカル消費はいろいろな分野でどんどん取り入れられてきています。

エシカル消費がなぜ重要かというと、消費をすることが投票をすることと同じように、意思の表れになるからだと思うのです。一人ひとりの選択が、社会を変えていく力を持っている。選択をするときに地球や社会、環境を少し意識することが大事で、意識する人が増えれば選択ができるエシカルな商品も増えていきます。私は「気づきの連鎖」と言っているのですが、このスパイラルをつくっていけるのが、エシカル消費だと思っています。

「一人ひとりの消費の選択が社会を変えていく力を持つ」。

私の場合は、衣食住のすべてを対象にエシカルを考えています。もしも商品について考えるなら、自分のこだわりに加えて、サーキュラーにすること、つまり「循環」という考え方と向き合います。原料調達から製造、廃棄、その後リサイクルするところまで、全部循環させる。そして、その商品に関わる人みんなのメリットになるような仕掛けができれば、すごくいいものになっているはずです。

坂口 真生さん

これまでの活動を教えて下さい。

11年ほど前に、本屋で「エシカル」という言葉に出会って「これだ!」と。雷に打たれるという言葉がありますが、まさにその状態でした。

もともと両親が福祉事業をしていた関係で、小さい頃から気づいたらフェアトレードのアイテムが家にあったり、両親からの影響は少なからず受けていると今になって強く感じています。

また、高校3年生のときから交換留学生としてアメリカへ行き、それから大学、社会人とアメリカで過ごす中で、福祉や社会貢献活動をやることに関して、ずっと思いはあったのだと思います。実は社会福祉をやることや、他人のために自分の人生を捧げるほうが豊かなんじゃないかと。そういう思いと、アメリカでファッションや音楽の仕事をしてプロモーションやブランディングをやってきた自分の経験とが、エシカルという言葉と出会ったときに全部つながったんです。私が今まで培った知識や経験や得意なことを、エシカル的につなげることができる、と。

要は、エシカルという概念を知って、ビジネスと社会課題や環境問題の解決とを結びつける方法があることに気づいたのです。それ以降、私はエシカルをライフワークにしようと決めて、今に至ります。

エシカル生活を習慣化するために意識していることは?

エシカルとは、「背景に目を向けること」なので、自然のこと、歴史のこと、モノづくりのことなど、個人ができることって意外にたくさんあるんですよね。

例えば、朝ドラで戦前の話を取り扱っていたりします。戦前は、まだプラスチックが開発される前ですよね。だから、私が戦前の話を題材にしたドラマを見ているときは、家に置いているものがすべてエシカルだって思いながら観ているんです。ガラス瓶を使い回したり、木箱や木桶を使ったり、プラスチックがないだけですが、それで逆に、「この短期間でプラスチックがこんなに溢れちゃったんだ」って気づくんですよね。そこから「それらをそぎ落とすのにはどうしたらいいんだろう」って考えたりします。

楽しめないと続けられないので、自分の身近なところで、楽しめるところから始めると良いのではないでしょうか。友達、家族、仕事仲間、そういう人と共有できることが楽しかったりしますし、つながっていくのもおもしろいですよね。そういう実感できることを小さなことでいいので、自分なりに作っていくと習慣になっていくのではないかなと。おしゃれなサスティナブルメディアも出てきているので、そういうメディアに触れてみるのもいいかもしれません。

坂口 真生さん

エシカルにこれから取り組みたい人に伝えたいことは?

自分ができることをやる、みんなが積み重ねていく。

皆さんに一つやってほしいと思うのは、商品に思いを馳せることです。この素材はどこから来たんだろう、誰がつくったんだろう、どうやってこの売り場まで届けられたんだろう。そうやって考えることを楽しみながら、買い物する時の選択肢に「エシカルかどうか」を取り入れてもらえたらと思っています。

実は、私のエシカルに関する活動は、選択肢を広げることからでした。エシカルな商品がゼロだと買えないけれど、10個のうち1個でも選択肢があれば、可能性は広がりますよね。売り場にエシカルな商品を並べてもらうこと(選択肢を広げること)に取り組み続け、少しずつ選択肢が増えてきました。

坂口 真生さん

今後の構想・取り組みたいこと・野望などは?

私としては、「エシカルやサステナブルという言葉をなくしていくこと」が目標だと常々思っています。循環型社会が未来に実現した時には、もうそれが当たり前になるはずですから。

それから、これは前々から言っていることですが、「日本独自のエシカル」をつくりたいと考えています。そもそもエシカルという言葉自体は、英国で生まれたものです。英国は産業革命で最も豊かになった国ですが、歪み(ひずみ)も生まれました。

一方アジアでは、日本が1番豊かになりました。でも、自殺や貧困の問題を多面的に抱える今の日本は本当に豊かと言えるのでしょうか? もはや、モノで幸せになれる時代ではありません。エシカルな視点でも日本がアジアの中で先陣を切って豊かになるべきです。

脱炭素の流れで欧州ではグリーンエネルギーに関心が向かいがちですが、日本もそれに倣うのではなく、職人技や伝統文化の継承など、日本流のエシカルがあるはずで、それはアジアのほかの国にも応用できると思います。日本で成功事例をつくって、アジアに広めていきたいですね。

考えている企画はたくさんあって、ワクワクしているところです。徐々にですが、一つずつカタチにしていっているのでぜひ楽しみにしていてください。

坂口真生

GENERATION TIME株式会社  代表取締役

高校でアメリカへ渡り、大学卒業後ニューヨークにて音楽業界に携わり、自社音楽レーベルを設立。2003年日本へ帰国しアッシュ・ペー・フランスに入社。セレクトショップ、アート事業、Eコマースの立上げに参画。2013年、日本最大級のファッション・デザイン合同展示会「rooms」で日本初となるエシカルをテーマとしたエリアを立ち上げる。その後、銀座三越、ルミネ、東急百貨店、阪急百貨店など商業施設にて数々のエシカルキャンペーンを企画・プロデュース。2017年、エシカル事業部を設立し、同事業部ディレクターに就任。2021年、エシカルコンビニを始動。同年、独立。GENERATION TIME株式会社創業。

SDGsやEGS等の関心の高まりから、多角的なエシカル/サステナブルのビジネスコンサルティングを行なっている。

日本エシカル推進協議会発起人・アドバイザー。アファンの森・アンバサダー。

 

坂口 真生さん