エシカル消費の推進を目指して立ち上がったネットワーク

私たち「消費から持続可能な社会をつくる市民ネットワーク(SSRC)」は、環境・消費者・人権・アニマルウェルフェア等の課題に取り組む全国38のNGO・市民団体から成るネットワークです。2016年の発足以来、エシカル消費を促すための二つのプロジェクトを続けています。

一つは、持続可能な生産と消費を実践するための、環境・人権・動物の福祉などに配慮した「エシカル商品」の情報を知らせるウェブサイト「ぐりちょ」の作成と更新です。

消費から持続可能な社会をつくる市民ネットワーク(SSRC)

「企業のエシカル通信簿」プロジェクトとは

   もう一つが、企業がエシカルな方法で事業を行っているかどうかを多面的に調査して、10段階の「成績」をつけて発表する「企業のエシカル通信簿」プロジェクトです。

 これまでにメーカー(化粧品、家電、食品加工、飲料、アパレル)、小売り(スーパー、コンビニ)、サービス(宅配、カフェチェーン、外食)などの大手5社~10社を対象に、「サステナビリティ体制」「消費者の保護・支援」「人権・労働」「社会・社会貢献」「平和・非暴力」「アニマルウェルフェア」「環境(ガバナンス、気候変動、ごみ削減、生物多様性、化学物質、水)」の7分野について詳細な調査を行い、その結果を発表してきました。

他の企業調査とは一味ちがう、「企業のエシカル通信簿」の特徴

 「企業のエシカル通信簿」は通常の企業評価指標とは異なり、あくまで市民・NGOの目線から、「企業にどうあって欲しいか」「どんな情報を公開して欲しいか」という基準で調査票を作り、評価を行います。よくある企業がアンケートに回答する形ではなく、まずは公開情報をもとに自分たちで調査票に記入し、その結果を企業に送って対話を重ね、照会・修正・再検討しながら、最終結果を出していることも特徴です。

 そしてもう一つの特徴は、「総合評価」や「ランキング」は行わず、あくまで分野ごとの達成度を評価する「通信簿」の形であることです。一見わかりやすい「総合点」(または全分野の平均点)で企業に順位をつけると、どうしてもそこにばかり目が行き、かえって個々の取組みが見えにくくなります。企業を批判するのではなく、企業の取組み度合いを消費者に知らせ、企業の良い行動を応援し、最終的にサステナブルな社会を作っていくことが私たちの目的なので、分野ごとの評価を大事にしています。

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・「参考:2022年度に調査した、加工食品メーカーのレイティング」

企業からの反応はポジティブなものが多い

 これまでに調査対象となった企業からは、「消費者から何を期待されているかがわかった」「エシカルだと考えて取り組んできたことが、正しいとわかってホッとした」「企業内の他部門と対話する良い機会になった」「自社の強みと弱みを教えられた」など、おおむね良い反応をいただいています。消費者へ情報提供することでエシカル購入が進むと考えて始めた取組みですが、調査される企業にも直接的な好影響を与えていることがわかり、ますますその意義を感じています。

2023年度の調査対象はアパレル事業者

 さて2023年度は、アパレル産業の大手10社を対象に調査を行います。アパレル産業は2016年度にも一度5社を対象に調査しています。前回あまり結果がかんばしくなかった(最低点「1」や「2」ばかりが並んだ企業も多かった)ので、7年経ってどれぐらい変化したかを調査できるのは非常に楽しみです。(前回の結果はこちら

 またご存知のように今年は、バングラデシュのラナ・プラザビル崩落事故によって、縫製工場で働いていた労働者1,000人以上が死亡、2,000人以上が負傷したあの惨劇から、ちょうど10年の節目の年です。世界ではファストファッション産業が抱える負の側面に光が当たり、様々な改革が行われているものの、まだまだ環境や人権に大きな負の影響を与え続けているアパレル業界の動向は、私たち消費者にとり大変大きな関心事です。

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(イメージ画像)

 その意味でも、アパレル企業のサステナビリティ状況に、今いちど一般の皆さんの関心が向いてほしいと願っています。またこれを機に、日本の大手アパレル企業と対話をし、どうしたら地球と人間、動物たちにとってより良い生産を続けていけるのかを、一緒に模索していきたいと考えています。

調査結果にぜひご注目を

 例年、年度末の3月には結果発表会を開催しています。企業、メディア、市民社会、学生、一般の皆さんなど様々な立場の方にご参加いただき、成績発表のみならず分野ごとの概要説明、質疑応答によって、理解を深める機会になっています。また企業や一般参加者の皆さんに、私たちからの提案をお伝えします。

 また近年は、調査対象企業と事後の個別対話の機会を設け、自社の取組みについてさらに伺ったり、業界ならではの課題を訊いたり、私たちからの要望やアドバイスを伝えたりしています。アパレル産業の皆さまにも、このような「NGOとのダイアローグ」に積極的にご参加いただければと願っています。

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消費から持続可能な社会をつくる市民ネットワーク(SSRC)

・過去に開催したイベントの様子

さらなる広がりを目指し、中小企業向け自主調査プロジェクトも開始

 「企業のエシカル通信簿」プロジェクトは、集計には自動計算を導入しているものの、ネットワーク所属団体が自分たちで丁寧に調査を行い手作業で進めているため、なかなか大規模に展開することができません。ですが、今後は希望する企業にエシカル通信簿の調査票を用いて「自主調査」に取り組んでいただき、またその結果のデータを集積していくことで、このプロジェクトの規模と利用価値を高めていければと考えています。

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(イメージ画像)

 そこで今、大企業を対象とした「企業のエシカル通信簿」とは別に、中小企業向けに調査票を公開し、自主調査を行っていただく「市民目線の中小企業者サステナビリティ自主調査推進プロジェクト~持続可能な経営のためのセルフチェック~」プロジェクトを、各地の経済団体等と協力しながら進めています。

 今後も私たちのプロジェクトにご注目いただければ嬉しいです。

山岡万里子
(消費から持続可能な社会をつくる市民ネットワーク〈SSRC〉共同代表幹事)

 現代奴隷・人身取引問題の啓発に取り組む「ノット・フォー・セール・ジャパン〈NFSJ〉」代表。
 「人身売買禁止ネットワーク〈JNATIP〉」運営委員。「企業のエシカル通信簿」プロジェクトでは「人権・労働」分野の調査を担当している。
主な訳書:『告発・現代の人身売買~奴隷にされる女性と子ども』(バットストーン/2010/朝日新聞出版)、『性的人身取引~現代奴隷制というビジネスの内側~』(カーラ/2022/明石書店)、『現代の奴隷~身近にひそむ人身取引ビジネスの真実とわたしたちにできること~』(ヴィラ/2022/英治出版)

 

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