―エシカルファッション(人・社会や地球環境に配慮したファッション)に興味・関心を持ったきっかけは?

高校1年生の時に、アパレルショップの店頭でバイトを始めたことが大きなきっかけとなりました。

当時の日本では、最新の流行を取り入れた商品を大量生産したうえで低価格にて販売する「ファストファッション」が主流化したことで、洋服の平均価格も大きく下がり始めていました。高校生だった私自身、Tシャツが1,000円で買えるようになり嬉しかったことを覚えています。

そのなか、店頭に立ってお客様と会話をしていると、ファストファッションが流行するにつれて、服の価格を非常に気にされて購入の意思決定をする方が増えていることを肌で感じました。

私自身も、働き始めた当初は「お金を貯めて好きなブランドの服を買う」という買い方をしていましたが、ファストファッションの流行後は「好きなブランドのデザインに似ている服で安いものを買う」という考えが強くなっていました。ただ、服を買う自分のなかでの判断材料が、価格に大きく左右されてしまって良いのだろうかと、少しずつ疑問を抱くようにもなりました。

エシカルファッションを通じて”本当に欲しい服”と出会う

そのような疑問を抱くなか、学校の授業でフェアトレードについて学ぶ機会がありました。フェアトレードで取引されているチョコレートやバナナは、生産者や労働者に配慮した公平な貿易が心がけられているけど、(ファスト)ファッションではどうなのだろうか? そもそも、服はどうやって作られているのだろうか?

服が作られている背景や方法を当時は全く知らなかったのですが、そこから服の工場へ実際に足を運ぶ機会があり、一着の服が出来るまでには生地を織ったり、染めたりなど、すごい技術がたくさん詰め込まれていることに驚きました。しかしその一方で、現場の労働者に対しては十分な給料が支払われておらず、生産過程における環境負荷の問題も多く抱えていることを知りました。

ファッションの物づくりの面白さと抱えている課題をもっと伝えていきたいと思っていたところ、イギリスでは既に「エシカルファッション」という言葉が使われていました。これこそが、私が大事に思っていた考えと近いと感じ、「エシカルファッションプランナー」としての活動を始めました。

―エシカルファッションプランナーとしての、これまでの活動について教えてください。

当時はモデルもしながら大学院にも通っていましたが、個人ブログが流行っていたこともあり、私自身が学んだ課題や問題、関心ごとや考え方などについてはブログを通じて積極的に発信をしていましたね。時には、旅行会社にもご協力をいただいたうえで、私のファンの方々と一緒に「スタディーツアー」で海外の現地工場への見学も企画しました。

現在はスタディーツアーのほかにも、講演やトークイベント、服の原料となるコットン(綿)から自分の手で育てる消費者参加型プロジェクト「服のたね」の運営・協力など、活動の幅も広がってきました。

エシカルファッションを通じて”本当に欲しい服”と出会う

「服のたね」は服の原料となるコットンを自分の手で育てながら、
コットンを育てるメンバー同士や工場の生産者とも交流し、服を作り上げる1年がかりのプロジェクト

―現在のご活動の中で、特に注力していることについて教えてください。

今まではモノづくりの生産背景を知ってもらう活動に注力をしてきましたが、現在は「選べる商品が少なければ良い生産や消費も回らない」との考えから、産業全体のシステムに働きかけていくことをテーマに掲げて、「官民連携」「生活者への情報発信」「デザイナーへの支援」の3つの軸で取り組みを続けています。

私が共同代表を務める一般社団法人unistepsでは、日本の繊維・ファッション関連企業が、産業の共通課題について話し合い、連携していくためのプラットフォーム「ジャパンサステナブルファッションアライアンス(JSFA)」の事務局を務めています。パブリックパートナーとして、行政の皆様にもご参画頂いており、官民連携のきっかけづくりにもつながっています。JSFAでは、カーボンニュートラルとファッションロスゼロを目標に活動を進めています。

「デザイナーへの支援」については、「ファッションフロンティアプログラム(FFP)」というデザイナーに向けたエデュケーションプログラム兼アワードを運営し、創造性と社会的責任制を兼ね備えた人材の育成にも注力をしております。

エシカルファッションを通じて”本当に欲しい服”と出会う

―消費者(我々)がエシカルファッションについて理解したうえで、アクションを起こしたりするには、どのようなことを意識すれば良いでしょうか? あるいは、どのような視点で服を選んだり、使ったり、楽しんだり、手放したりすれば良いのでしょうか?

一番は「本当に欲しい服だけを選ぶ」を徹底することだと思います。ただ、これを実行するのはとても大変です。

皆さんも服を買いに店頭へ行って、可愛い・かっこいいと思った服でも最終的に値段を見て買わなかった経験はあるかと思います。また逆に、そこまで欲しい服ではなかったけども安かったら買ってしまう、ということもあるでしょう。

ただ、値段の安さだけを理由に買った服は愛着も生まれにくく、家に服はあっても着たい服が無いという状況を生み出しかねません。これでは自分自身も幸せになれないですし、生産者の人たちにも十分なお金が行かず、悪循環になってしまいかねません。

例えば、私は価格だけに意思決定を引っ張られてしまわないように、素敵なデザインの服に出会ったら、値札を見る前に「いくらが妥当だと思うかな?」と一度立ち止まって考える、その後に値段も含めて買うかどうかを検討するなどしています。他にも、クローゼットの中身をきちんと把握するなど、持っている服を見直すこともいいかもしれません。皆さんなりの「本当に欲しい服を選ぶ」を実践する方法があると思います。

また、服の素材や生産背景のことで気になることがあれば、好きなブランドや企業さんに聞いてみたり、疑問を伝えたりするだけでも企業さんにとっては、消費者の方が気にしているポイントを知るきっかけになるので、とても大きなアクションです。

―今後の活動の構想・取り組みたいこと・野望について教えてください。

私たちは、ものを買う際に、値段や見た目以上の情報を知ることが難しい社会にいます。そのものができるまでにどのような生産背景を辿ってきたのか、手放した後にリサイクルできるのかどうか、そういったことも含めて”本当に自分の価値観に合った買い物”ができるようにしたいと考えています。

例えば店頭でドライヤーを買う時に、重さやパワー、消費電力を知ることが出来ても、そのドライヤーがどのような環境で作られて、どれだけ環境に配慮されているかを知ることは容易ではありません。

オーストラリアでは「Good on you」というサイト(評価機関)があります。そこでは人権・環境・動物への配慮等を軸としながら、数百にわたる項目を元に、様々な企業・ブランドがどのくらい環境と人に配慮しているのか、5点満点で評価しているのですが、そのサービスを日本にローカライズするためのアドバイザーをunistepsが務めています。2023年12月にWEBサイト「Shift C」(運営主体:株式会社UPDATER)がオープンしました。まずはエシカルファッションに特化したうえで公開し、今後はファッション以外にも様々な分野に広がっていく予定です。

生産者の企業努力を消費者に知ってもらうことで、消費者も納得感を持って商品を購入することが出来るようになります。また、生産者にとっては消費者からどのような目線で見られているのか分かるようになるだけでなく、モチベーションのアップにもつながりますので、互いのことを知るような仕組みづくりも、産業の良い循環のために作り上げていきたいと思います。

鎌田 安里紗

 1992年徳島市生まれ。高校在学時よりアパレル販売員と雑誌『Ranzuki』のモデルを始めたことをきっかけに、ファッション産業のあり方、特にものづくりの現場に関心を寄せる。2010年より、衣服の生産から廃棄の過程で、自然環境や社会への影響に目を向けることを促す企画を幅広く展開。種から綿を育てて服をつくる「服のたね」、生産現場を訪ねるスタディーツアー「めぐる旅」、衣服を取り巻くモヤモヤについてともに学び考えるプラットフォーム「Honest Closet」など。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程在籍。 2020年より共同代表に就任。

 

鎌田 安里紗