これまでの活動を教えて下さい

2009年ごろでしょうか。二十歳そこそこだった私は癌と借金という状況におかれていました。これまで自分の好きなことだけに生きて、何も社会に貢献できていない虚しさを味わい、人生の意味についてはじめて自分自身に問いました。

そこで、どうせ死ぬなら、誰かの役に立って死にたい、どうせ死ぬなら小さいころからの好きな洋服で世の中の役に立ちたいと考えるようになりました。

色々調べていると、洋服が作られる工程で大量の農薬や散布材が撒かれている映像を見ました。土壌を枯らし、作られる方の健康被害も目の当たりにして、持続不可能な方法で洋服が作られていることに衝撃を受けました。大好きな洋服がそんな風に作られていたのかと深く絶望しました。この誰かや何かの犠牲の上で成り立っている社会を変えたい、そう思った私は人生をかけて地球と人が洋服を楽しんでいる社会をつくることを決めました。

自分が好きな洋服で、人と地球に恩返し。

(イメージ画像)

まず考えたのが「自産自着(じさんじちゃく)」という、国内で原料となるオーガニックコットンを自分で育てて、自分で着るという体験農園型の事業です。これは他国の土地を汚し、他国の人の健康に影響を及ぼして迷惑をかけている状況を私が許せなかったからです。

例えば、日本ではお米がどこで誰がどのように作っているかは、多くの人がなんとなく知っていて原風景を持っています。そして食べるときに「いただきます」と言って残さず食べます。それは作ってくれた人への感謝や尊敬があるからです。一方、洋服は輸入に98%以上頼っていて日本での自給率が2%未満。原風景が日本にはないし、例えばオーガニックコットン畑がインドとかウイグルやトルコのように広がっているわけじゃない。

お米のように、着るもの(コットン)も育てれば原風景も広がる。自給率も上がる。自分たちで着て洋服を大切にする。他国の土壌汚染、健康被害を生むこともなくなる。そう考えての一念発起でした。

2009年から2018年まで、ずっと会社員の傍らその「自産自着」のビジネスを推し進めてきましたが、なかなか社会には受け入れられず、オーガニックや、フェアトレード、エシカルファッションという言葉自体も響きませんでした。

その後、2011年の東日本大震災や、2013年に縫製工場も入っていたバングラデシュのラナ・プラザで起きたビルの崩落事故もありました。そして2015年には国連でSGDsが採択され、まわりの環境がソーシャルグッドな動きになってきましたが、それでもアパレルの動きは鈍く遅いものでした。

自分が好きな洋服で、人と地球に恩返し。

(バングラデシュのラナ・プラザがあった首都ダッカ)

環境を、人権を、いち早く解決しなくてはならないのに。この状況に私は我慢の限界を感じていました。

八方ふさがりに陥っていた2018年のある日、貧困層を対象とした融資で知られるグラミン銀行のユヌスさんが来日し質問できる機会をいただけました。そこで彼は私に「人は生まれついての起業家。どんな環境でも、誰もが社会起業家になれる」とおっしゃいました。

「誰もが世界を変えられる」という言葉に魂が揺さぶられ、再び火が付きました。会社を辞め、改めて「自産自着」のビジネスモデルを見直し、本当に世の中に求められ、社会的によりよいインパクトを与えることを優先的にはじめようと思いました。

ユーザー視点に返り、民間企業の調査なども見ていたところ、世の中には約8割もエシカルな消費行動をしたいという人がいるにもかかわらず、デザインや価格、販路などの問題で日常的に取り入れられていない状況に気づきました。

このまま体験農園型の事業だけを続けたとしても、農園で体験をしてくれたユーザーさんも服を作り終わった際、日常にエシカルな服をもっと取り入れたいと願うものの、それを実現することが困難な情景が浮かびました。いくら自産自着の体験ができたとして、街中でそういうエシカルな背景で作られた服が売っていないとしたら、いつかこの問題にぶつかると気づいたんです。

また、私が夢中で自産自着のビジネスをやってきた10年で、世界にはエシカルな背景で作られていながら、おしゃれで日本でも取り入れられているブランドが沢山誕生していることも調べてわかりました。

エシカルファッションが当たり前の選択肢になる土台をまずは形成するため、その先輩ブランドを世界中から集めました。そして2019年9月にエシカルファッション専門のセレクトショップを事業とするEnter the Eを設立しました。今は世界中から35ブランドほどのレディス、メンズなど幅広いアイテムをセレクトし、ネットや商業施設で販売しています。また、2022年からはさらに選択肢を増やすため、Enter the Eのオリジナルブランドをスタートさせています。

いま取り組んでいる・注力していることは

ハードルが高いと言われるエシカルファションをいかに身近に、楽しく普及するかが課題です。

最大の壁は低い認知度。この壁を超えるには、エシカルではない別の入口から扉を開く必要性があると感じています。エンタメ的な要素、または生き方や心の在り方自体が見直される体験などです。

次に払拭すべきは実践しようとしたときに、普通の洋服よりも「いいものだろうけど、高い」と思われてしまうイメージです。公正な賃金、環境負荷の少ない原料、トレーサビリティの確保などの点で、実際に原価は通常の服の1.3倍といわれています。

世の中には積極的にサステナブルでエシカルな背景を持つファッションを取り入れたい意向の人が51%いるにもかかわらず、そのうち具体的に取り入れられていない人はおよそ7割に上ります。(環境省 令和2年度 ファッションと環境に関する調査業務―消費者アンケート調査―より)。

自分が好きな洋服で、人と地球に恩返し。

(環境省資料よりEnter the E作成)

どうしても世の中にある普通のブランドやファストファッションとの比較になるため、手軽さや、身近さは必要不可欠な要素です。これまで弊社のセレクトでもこの身近さ、手軽さは一部の商品でしか実現できていないのが現実でした。そこで私の役割として着手しているのが「身近で手軽に取り入れやすい」アイテムの開発です。「エシカルなのに、手に取りやすい」これまでエシカルファッションにない、はじめやすい入門服として「TEN」というオリジナルブランドを作り始めました。

自分が好きな洋服で、人と地球に恩返し。

ちょうど2013年のラナ・プラザ崩落事故からの10年経った2023年4月にプロジェクトをスタートし、エシカルな背景にこだわりつつ、これからの10年を共にする服として10年Tシャツや10年スウェットなどを誰でも取り入れやすい値段で、スタンダードなアイテムを中心に注文販売を開始しています。

今後の構想・取り組みたいこと・野望などは

洋服で人や地球に恩返しをしたいと思います。

また、エシカルに興味がある・なしに関わらず、ファッションに興味がある・なしに関わらず、洋服が大切にされ、私たちも同じように自分や他人を大切にし、同じように地球も森も動物も森羅万象、生きとし生きるものがお互いを思いやりながら大切にしている状況を作り出したいです。

生き方や心の在り方ひとつでもっと人類は良くなれるし、私たちが洋服にも、自分にも、他人にも、地球にも愛を持って生きることで状況をいい方向に変えていけると信じています。

エシカルファッションを通じて洋服もひとも地球も大切にされる調和社会をつくり、持続可能なしあわせの実現をしていきたいです。

具体的に一つ目は、他国にいらないものを押し付けない国内循環を行う資源循環事業で、循環施設や循環する商品のしくみを作ること。現在、世界的な問題になっている年間9,200万トンの大量廃棄される洋服を、これ以上増やさない必要があります。市民、行政、企業参画型のエコシステムを形成、日本から衣類の資源循環ができる成功事例をつくり、各国で横展開できるような実用モデルを実走したいです。

二つ目は、炭素が育たない土壌や、雇用が必要な地域にオーガニックのコットンやリネン、ヘンプの栽培と製品づくりで土壌を回復、よみがえらせ、雇用を生むリジェネラティブ農業(環境再生農業)を行い、これまでファッションで汚してきてしまった土壌、迷惑をかけてしまった人たちに恩返しが出来たらと思います。

最後に、現在心理学や幸福学についても学びを深めています。
心を壊したり、無くしたりしていく人が増える社会において、エシカルファッションを通じて、自分を愛する気持ち、他者や地球への感謝の気持ちを取り戻し、大きなしあわせで満たされる衣類を届け、しあわせな社会を作っていけたらと思います。

植月友美 Enter the E株式会社CEO/Enter the E創業者/社会起業家

2009年、杜撰なファッション業界の環境破壊を目の当たりにし、人や地球に迷惑をかけずに洋服を楽しめる社会をつくること決意。
人生をかけて、「地球と人が洋服を楽しめる社会の両立」の実現に挑む。
2019年 Enter the E創業
2019年 ジャパンソーシャルビジネスサミット 審査員特別賞受賞
2020年 Flauエシカルアワード受賞
2020年 TGCサステナステージ出演
2021年 サステナブルブランド国際会議出演
2021年 TGCサステナステージ出演
2022年 ソーシャルプロダクツアワード ソーシャルプロダクツ賞受賞
2023年 グローバルコンテストファッションバリューチャレンジ 日本ファイナリスト
エシカルやサステナブルファッションに関する監修、講演活動も積極的に行っている。

 

 

 

自分が好きな洋服で、人と地球に恩返し。