リサイクルは日本の文化

ナカノ株式会社は、古着・古布を専門にリサイクルする業者として創業し、今年(2024年)で90周年を迎えます。

「リサイクル」というと、ここ30年、40年の間に起こった新しいムーブメントのように思われがちですが、資源少国の日本は、戦後に高度経済成長を迎えるまで限りある資源をできる限り有効活用する行為が文化として根付いていました。

当社のような業を「故繊維業」といいますが、もともと江戸時代以前から着物や布を再利用する下地のあったところに、近代産業化の幕開けと共に一つの産業として成立しました。ですから、およそ150年以上の歴史があります。

古着・古布のリサイクルとは?

当社が扱う古着・古布は、ほぼ全て一般家庭で皆さんがお使いになって手放された洋服や布類です。古着・古布のリサイクルは先進国を中心に世界中で行われていますが、ほぼ①再び着る服として、②産業用の油ふきとして、③様々な製品の材料となる綿としてのいずれかの用途で活用されています。

一つ目は分かりやすいですね。服なので、まだ着られるものは着ようということです。

日本でも最近は古着がポピュラーになりましたが、それでも全体として見れば少数で、大半は海外の発展途上国で古着ということを特に意識されることなく、新品の服と同じマーケットで普通に服として消費されます。

日本から輸出される古着の99%はパキスタンをはじめとした東南アジアで消費されています。この古着の輸出は、いち早く産業化した欧米では長い歴史がありますが、日本では、戦前の満州などに送っていたケースを除けば、ここ50年くらいのことです。

環境と経済を両立させるものは“人の知恵”

(輸出先の子供たちと)

二つ目は、主に木綿でできた服や布を「ウエス」と呼ばれる工場などで使う油ふきとして活用する用途です。

この「ウエス」は逆に日本で興り、戦前は日本の主要輸出品目に数えられるほどでしたが、今や世界中に広まっています。当社だけでも年間1,000トン以上のウエスを国内の工場で使っていただいていますので、日ごろ私たちの目には触れませんが、結構使われているのですね。

ウエスが本格的に作られるようになったのは150年ほど前ですが、その背景には、日本人が木綿を着るというだけでなく、頻繁に風呂に入ったり、洗濯をするという文化だったことがあります。使い込んだタオルを思い浮かべると分かりやすいと思いますが、洗濯を繰り返した木綿は脂分が抜け、水や油をよく吸うようになります。この特性がちょうど近代工業が発展した19世紀末の時代背景とあいまって重宝されるようになったのです。

環境と経済を両立させるものは“人の知恵”

(ウエス)

三つ目は、綿(わた)に戻す用途で、「反毛(はんもう)」といいます。

これは羊毛をリサイクルする技術で、日本では20世紀の初めごろから始まりました。当時は化学繊維などなく、警察や郵便局の制服にせよ、一般人が着るコートにせよ、ウールを使います。しかし、日本では羊毛産業が育たなかったため、海外から輸入した貴重なウールを再利用しようという業が発展したのです。

今では、ウールに限らずその他の素材も反毛されており、自動車の防熱・防音フェルトの材料として結構たくさん使われています。ちなみに当社では、この反毛綿をさらに糸に紡いで軍手を編み、「特殊紡績手袋 よみがえり」というリサイクル商品として、長年ご提供しています。

環境と経済を両立させるものは“人の知恵”

(特殊紡績手袋 よみがえり)

つくるだけでなく、使うところまで

その中でも当社のリサイクルの特徴は、古着・古布をただ集めて、「こんな製品ができました」で終わらせるのではなく、その先の使っていただくお客様のところまで責任をもってお届けしているという点です。

例えば、海外に輸出される古着も、ただ集めて輸出するのではなく、送り先の国々のニーズに合わせて細かく手作業で選別します。その分類は約160種類にもなります。これは現地で必要としないものを送らないようにするためです。ウエスや軍手は、すべて日本国内の産業界で使われますが、これも各地に営業拠点、営業部隊をかかえ、直接お客様のところにお届けしています。

逆に古着・古布を集める方についても、当社のHPに寄せられる回収についてのご質問には直接お答えさせていただいています。また、古着・古布の回収をされていない地域にお住いの方からも、捨てるには忍びないので当社に送りたいというお声をたくさんいただきます。送られてくる古着に、送られた方の想いがつづられたお手紙が入っていることも珍しいことではありません。

服は生活になくてはならないものですし、着ている方の個性や想いを表現するものです。ですから、こうして古着・古布を通じて潜在的にすべての方と想いを通じてつながれるのは、当社の仕事の特徴であり、醍醐味の一つでもあります。

地球の誰かがまた使う

私たちのリサイクルは、皆さんが着ておられた服やお使いになった布製品を手放すところから始まります。現在、様々な資源を分別回収する地域が増えていますが、その際にぜひ覚えておいていただきたいことは、手放した服や布は決してゴミではなく、「地球上の他の誰かがまた使うもの」だということです。

ですから、特に服については破れていたり、ひどく汚れていたり、雨に濡らしてしまったりというような、「着られないようなものは資源回収に出さない」ようご注意いただければ、より多くの服を次に活かすことができます。

当社のホームページでも、古着回収に出せるもの、出せないもの、ご注意点などを掲載しておりますので、ぜひご覧ください。

環境と経済を両立させる知恵、“エコソフィー®”

環境保全のためのリサイクルは、経済活動の一つです。つまり、環境と経済とは本来、一体不可分のものであって、別々のものではありません。しかし、両者を相反したものとしてとらえるか、調和したものとしてとらえるかは、偏に私たち人間の考え方にかかっています。

当社は、長年の事業経験から、こうした「環境と経済を両立させるものは人の知恵である」という概念を「エコソフィー」と名付け、事業のパーパス(目的)としています。

環境と経済を両立させるものは“人の知恵”

(エコソフィーを表したカラーの横浜工場・横浜市金沢区)

お読みいただきありがとうございました。古着・古布のリサイクルを少しでも身近に感じていただけたら、大変嬉しいです。

ナカノ株式会社

1934年(昭和9年)、リサイクルする古着・古布を扱う故繊維問屋として横浜で創業。以来、古着・古布のリサイクルの他、工場の作業現場の安全・衛生を守り、働きやすい職場環境を作るための商品の卸も行う。

 

環境と経済を両立させるものは“人の知恵”