#アニマルウェルフェア #家畜福祉 #卵 #養鶏 #エイビアリーシステム #平飼い
はじめに
「アニマルウェルフェア」とは、家畜を「感受性を持つ生き物」として捉え、ストレスを減らし、動物本来の行動要求が満たされる飼育方法を目指す畜産をいいます。家畜への負担を減らすことで生産性向上や安全な畜産物の生産にもつながり、そのような畜産物を消費することはエシカル消費といえます。今回は、埼玉県でアニマルウェルフェアに配慮した養鶏を営む株式会社ナチュラファーム、代表取締役の一柳憲隆氏にお話しを伺いました。
好奇心旺盛で元気なニワトリの姿に感化
埼玉県で代々養鶏を営む、一柳さん。「にわとりの健康を通じて、ひとの健康に貢献する。」を経営理念に2004年からアニマルウェルフェアに基づいた方法で養鶏を営んでいます。
きっかけは、EUが1999年に発出した「採卵鶏保護のための最低基準に関する理事会指令」。バタリーケージによるニワトリの飼育が2012年に全面禁止となることが定められていました。バタリーケージは、ニワトリが1羽入るのがやっとの金属製の狭いケージ。アニマルウェルフェアの観点からは課題がありました。しかし、バタリーケージによる飼育は日本では当時も今も一般的な方法です。ヨーロッパの大胆な政策に驚いた一柳さんは、視察に出かけます。そこで目にしたのは、自由に動き回るニワトリの姿。一柳さんが養鶏場に入ると、ニワトリたちが一斉に足元に駆け寄ってきました。日本の養鶏場ではまず見られない、平飼いによる好奇心旺盛なニワトリの姿に感化されました。日本でもストレスの少ない健康なニワトリの卵を求める方がいるのではないか?一柳さんは、平飼いによる養鶏に取り組み始めます。
平飼いで育った人懐っこいニワトリ
ケージ飼いの利点も活かしつつ、アニマルウェルフェアと食の安全の両輪を回す
平飼い最大のポイントは、ニワトリ本来の行動要求を満たすこと。しかし、生でも食べられる安全性の高い卵の生産には課題がありました。自由に動き回るニワトリは卵を産む場所やタイミングも自由。産み落とされた卵がフンと接触したり、鮮度のよい卵が確実に回収できない問題点もありました。一方のケージ飼いでは、構造上それらのリスクはほぼゼロ。鶏舎を立体的に使うことで飼育管理羽数も平飼いに比べ格段に多いのが事実でした。効率的な卵の生産は価格の安定にもつながっていたのです。
解決に導いたのが、ヨーロッパの視察で見た「エイビアリーシステム」。「直立多段式ケージフリー」とも言い、立体駐車場のように、ニワトリが自由に動き回ることのできるエリアが上へと伸びています。鶏舎には「屋外運動エリア」や「産卵エリア」など、ニワトリの行動要求を満たす区画に分けられます。また、フンと卵・ニワトリの分離がなされ、食品安全の面からも良好な飼育環境でした。
一般的な平飼いの鶏舎
(イメージ)
ニワトリの行動要求を満たすが、面積のわりに飼育羽数が限られる
エイビアリーシステムによる鶏舎
(独 Big Dutchman 社製のイメージ)
ニワトリの様々な行動要求を満たす。飼育羽数は一般的な平飼い鶏舎に比べて多い
ニワトリの行動要求を満たすが、面積のわりに飼育羽数が限られる
ニワトリの様々な行動要求を満たす。飼育羽数は一般的な平飼い鶏舎に比べて多い
2004年、一柳さんは日本はもちろん東アジア初となるエイビアリーシステムを導入。アニマルウェルフェアに配慮しながら、ケージ飼いによる衛生面での利点の両方を活かした養鶏システムを構築しました。「生食で食べられる卵は、日本の安全な食の一丁目一番地。アニマルウェルフェアへの配慮と高い安全性を両軸としたい」一柳さんは、エイビアリーシステムの導入に加え、世界標準の食品安全マネジメントシステム規格「GPセンターHACCP」などを取得。食品安全を徹底し、皆にやさしい卵づくりに奔走しました。
アニマルウェルフェアに配慮した卵は「ecocco(エコッコ)」として販売している。消費者からは、総じて「おいしい」の声が届く。
エイビアリーもケージ飼いも、今は選択肢を増やしたい
エイビアリーシステムを導入してから20年。日本では広く普及に至っておらず、まだまだケージ飼いが一般的です。平飼いのコストは高く、「物価の優等生」と言われる国内の卵は、ケージ飼いによる効率的な飼育により叶えられてきたといっても過言ではないためです。物価上昇も叫ばれるなかで、「今は選択肢を増やしたい」と一柳さんは話します。ナチュラファームでは、ケージ飼いのニワトリにもエイビアリーシステムで飼育されたニワトリと同じ自家配合飼料を与え、高品質な卵の供給に取り組みます。安価でおいしい卵を求めるお客さんを置き去りはできないというのが一柳さんの思いです。と同時に、「今後もどんどん情報をオープンにして、ニワトリの本来の姿を見てもらいたい」と、アニマルウェルフェアに配慮した養鶏について、YouTubeへの投稿やメディアへの取材対応など、広くその取組を発信しています。
アニマルウェルフェア=飼育方法と過程が「快適」かどうか
アニマルウェルフェアとは、「快適性に配慮した家畜の飼い方」。例えば、極寒の飼育下において、ニワトリが寒さをストレスと感じれば、平飼いであってもアニマルウェルフェアとは言い切れません。またその逆もしかり。ニワトリが生きていく上で快適かつ健康に卵を産んでくれる環境を整えてこそ本当のアニマルウェルフェアであるといえます。「消費者の皆さんには、飼育方法だけではなく、その畜産物が実際にどのような飼育下に置かれていたか、その過程にも目を向けてほしい。だからこそ、事業者は情報発信が大切」一柳さんはそう締めくくりました。
株式会社ナチュラファームは、「自らつくり、自ら育て、自らお届けする」をモットーに、ニワトリの健康と安全・安心な卵の提供を目指し、持続可能な養鶏に取り組んでいます。長年の経験と技術を活かし、アニマルウェルフェアに配慮した飼育方法を実践。安心してお召し上がりいただける卵を、幼児から高齢者、病気療養中の方まで、幅広い方々に提供しています。卵本来のおいしさを追求し、日本の食卓に貢献していきます。