#東北コットンフェスティバル #被災地支援 #サステナブルファッション
はじめに
人や社会、環境に配慮した消費行動、エシカル消費。これには被災地を支援する消費も含まれます。宮城県を中心に活動する「東北コットンプロジェクト」は、東日本大震災の津波による塩害により荒廃した農地を再生し、被災地域の農家を支援する取組です。農地再生のカギとなったのは塩害に強い綿花でした。被災農地での綿花栽培は皆未経験。手探り状態でのスタートでしたが、多くの支援を受けて栽培技術が確立されました。その後プロジェクトは地域社会に広がります。同取組に携わる岡様にお話を伺いました。
津波により荒廃した農地。塩害に強い綿花で農家を救いたい
東北コットンプロジェクトは、東日本大震災により甚大な被害を受けた東北地方で、農業の再生と地域の活性化・復興を目的に、アパレル関連企業と共に立ち上げた事業です。津波被害を受けた農地は海水流入の影響で塩害が発生し、荒廃していました。そこで、農地を再生し、農家の皆様を支援するために比較的塩害に強いとされる綿花の栽培を始めました。当時は、避難所で生活をされている農家の方も多く、綿花がどんなものかもわからない、これまで栽培したことがないという方がほとんどでした。しかし、先が見えない状況から気力を失いかけていた農家の皆様が〝ダメでもともと、やってみるか〟と集まり、活動を続けていく中で、少しずつ応援してくださる方が増えていきました。綿花を地域資源として捉え、農家の皆様と協力しながら、被災農地での栽培技術が確立していきました。
津波により被災した農地で綿花は強く、豊かに実った。
photo by NAKANO Yukihide
環境に配慮した綿花栽培。付加価値をもたせ農家を支援、地域のつながりも
プロジェクトは東北地方、特に宮城県を中心に展開しています。綿花は有機農法により環境負荷の少ない方法で生産しています。収穫した綿花は紡績・加工してTシャツやタオル、ジーンズなどにして販売しています。それらは、アパレル関連企業でPRし、付加価値を創出することで、農家の方々の支援にもつながる仕組みです。現在は地域の特産品として地元の道の駅などでもブースを設けて販売するなど、「東北コットン」をブランド化し、さらなる地域経済の発展を目指しています。
東北コットンのオーガニックスーピマ綿を使用した、軽くて優しい風合いのストール
綿の実があしらわれた、かわいらしい織り柄と優しい風合いが特徴のミニタオル
定期的に開催している綿花の栽培や収穫の際はイベントとして、地元の皆様をはじめ多くの方々が参加しています。東北コットンで作った商品の販売コーナーや、地域のお母さんたちが作る郷土料理の振る舞い、綿に関わるワークショップ、舞台上での出し物など、大人から子どもまで楽しめる催しが人気です。参加者からは、「初めて綿畑を見ました」「ふわふわで気持ち良い」などの感想をいただくほか、「前回楽しかったので今年も来ました」などリピーターの方からのうれしい声もいただいています。
収穫祭の様子。photo by NAKANO Yukihide
また、震災から12年が経過した2023年、新たな挑戦として「被災した農家の復興プロジェクトから、若者の未来を盛り上げる沸騰プロジェクトへ」という目的を掲げる新プロジェクト『MADE IN JIMOTO』を立ち上げました。その第1弾の取組として、宮城県で行われる総合芸術祭「Reborn-Art Festival」、アーティストネットワーキング「ビルド・フルーガス」の協力を得て、宮城県在住の10組のクリエイターとコラボレーションし、宮城県産の綿の消費を促して、地元を盛り上げました。
仙台駅自由通路ガレリアにて『MADE IN JIMOTO』プロジェクト開始を記念したPOPUPショップが期間限定でオープンした
photo by NAKANO Yukihide
エシカル消費はよりよい社会づくりへの「共感」から。持続可能な消費を推進したい
コットンのブランド化を通じて、私はアパレル業界におけるエシカル消費についても考えるようになりました。アパレル業界は昨今、天然資源の過剰消費や環境汚染が深刻です。また、それに伴う厳しい労働環境も課題です。これは残念ながら意識しなければ見えにくい事実です。気づかなかった、あるいは目を伏せていた問題に対して、消費者一人ひとりが行動に移さなければならない過渡期にあると思います。たとえ小さな選択でも“誰かの助けになるかもしれない”。そんな人や社会、環境を思うエシカルの視点で商品を選び必要な数量を買う。そして大切に使うことで結果的に持続可能な循環が実現すると思います。
災害復興も同様です。被災地で生まれた産品には、災害から立ち上がろうとする様々な方の強い思いが込められています。その思いへの共感が生まれた際には、可能な範囲でその商品を選択していただけたらうれしいです。東北コットンプロジェクトは、津波の被害を受けた農家の皆様の支援、地域の復興をしたいという願いからスタートしました。製品化したものを販売して得た収益を農家の皆様へ循環させ、支援する。またそれらをブランディングすることで地域の復興につなげる。そういった背景を知った上で購入することは、一見単なる買い物ではなく、自然環境の改善、農家支援、地域の復興支援など様々な作用につながります。また、そのような意識は衣料品に限らず食や住まい、生き方そのものにも波及するのではないかと思います。まずは、自分ができることから取り組むことが大切に思います。
宮城県の石巻を主な舞台とした、「アート」「音楽」「食」の総合芸術祭「Reborn-Art Festival」事務局スタッフ。Reborn-Art Festivalは、人が自然や人々に出会うなかで「生きる術」を学び楽しむ宿泊研修施設『もものうらビレッジ』や、駆除されるだけだった鹿の命を循環させ、地域に新しい「なりわい」を作るための鹿肉解体処理施設『FERMENTO』を運営。2023年11月には、石巻の玄関口であるJR石巻駅構内に未利用魚や鹿肉など地元の味を“おでんとタコス”で楽しむ飲食店『Reborn-Art STAND』をオープンするなど、地域の復興や振興につながる持続的な循環を生み出す取組を続けています。同じく東日本大震災からの復興からスタートした東北コットンプロジェクトの取組に興味があり、商品の企画や販売などに携わっております。