#鉄資源循環 #地産地消 #電気炉 #廃棄物処理
はじめに
医療の現場から日々排出される、使用済み注射針やメスなどの医療廃棄物は、感染リスクや安全面への配慮が不可欠であり、一般廃棄物のように簡単に分別・再資源化できないという難しさから、処理が難しい廃棄物の一つです。こうした課題に向き合ってきたのが、大阪府に本社を置く電炉メーカー、共英製鋼です。国内では、茨城、愛知、大阪、山口に製造拠点があります。同社は35年以上前から、電気炉の高温を活用し、医療・産業廃棄物などを安全に無害化処理しながら、その金属成分を製品の一部として再生する事業に取り組んできました。人の手を介さず回収容器ごと溶融処理することで高い安全性を確保し、資源循環につなげています。
医療・産業廃棄物などを処理しながら製造した鉄鋼製品は「エシカルスチール」と名付けられました。その背景には、“負の存在”であった医療廃棄物をはじめとする産業廃棄物を社会を支える素材へと転換し、その価値を広く伝えたいという思いがあります。持続可能な環境負荷の小さい鉄づくりについてお話を伺いました。
高温の電気炉が実現する、医療・産業廃棄物などを完全無害化する溶融処理技術
共英製鋼(以下、当社)は、役目を終えた鉄スクラップを電気炉で溶かし、新たな鉄鋼製品に製造する電炉メーカーです。加えて、鉄鋼製品の製造工程(電気炉操業時)で発生する数千度の高温を活用し、医療廃棄物をはじめとする産業廃棄物などを焼却・溶融処理する環境リサイクル事業も展開しています。当社は1988年、電気炉操業時の高温を利用した医療廃棄物の無害化溶融処理を開始しました。当時、注射針などの不法投棄問題のニュースを見た一人の従業員が「病原菌が死滅する温度は80~120度で、鉄が溶ける温度は約1,600度。電気炉で鉄スクラップと医療廃棄物を同時に溶融すれば、完全に無害化できるのではないか」と考えたことがこの事業の出発点となりました。
操業中の電気炉
人の手を介さず安全に処理。試行錯誤を重ね、難処理廃棄物の処理に挑む
医療機関から排出される廃棄物には注射針などの金属が含まれています。そこで、排出事業者である医療機関に廃棄物をドラム缶などの金属製容器やプラスチック製の専用容器に封入してもらい回収することで、そのまま電気炉で焼却・溶融処理を行います。感染の危険性がある医療廃棄物を人の手を介さず回収容器ごと処理できる点は当社の大きな特長であり、当時特許も取得しました。
一般的な焼却処理では焼却灰などの残渣(※1)が発生し、再資源化できず埋立処分となるケースが少なくありません。一方、当社では電気炉で溶融し、鉄分は鉄鋼製品として、その他の成分もスラグ(※2)として再資源化することが可能です。また、廃棄物を処理しながら製造した製品は、通常の製品と品質も性能も変わりません。事業開始当初は当社以外の前例がなく、想定外の設備トラブルや溶鋼成分の異常など、様々な課題に直面しました。しかし、あきらめることなく検証と試行錯誤を重ね、一つひとつ解決してきました。現在では医療廃棄物にとどまらず、フロンガス、アスベスト、廃リチウムイオン電池など、社会課題となっている難処理廃棄物の処理にも取り組んでいます。
※1 残渣とは、溶解・濾過などの後に残った不溶物、残りかすを指します。
※2 スラグとは、鉄鋼を製造する際に副産物として生成される化合物を指します。
マグネットクレーンで運ばれる医療廃棄物(ドラム缶)
鉄鋼製品がつくられる様子(冷却床)
≪エシカルスチール開発までの歩み≫
廃棄物という“負の資産”を、鉄鋼製品という“社会を支えるプラスの力”に変えたい
「エシカルスチール」とは、医療廃棄物をはじめとする産業廃棄物などを処理しながら製造した鋼材です。当社は35年以上にわたり、電気炉の高温を活用した医療・産業廃棄物などの処理に取り組んできましたが、当たり前に取り組んできたこの事業を社会により広くPRしようと、当社の鉄鋼製品に「エシカルスチール」と名付けブランド化しました。事業を通して、廃棄物という“負の資産”を、鉄鋼製品という“社会を支えるプラスの力”に変えていくという思いが込められています。
当社の主力製品である異形棒鋼(主にコンクリート内部で、強度を高める補強材)
建物や社会インフラを支える鉄鋼製品(写真はイメージ)
「エシカル」は日々の仕事の延長上にある価値
社内でブランディング活動を始めた当初の課題は、従業員にとって日常業務として行っている取組そのものが、価値として認識されにくかったことでした。「エシカルって何?」「当たり前に行っていることをブランディングしてどうなるのか」といった率直な反応もあり、意識の浸透は容易ではありませんでした。
そこで、現場の仕事とエシカルスチールの考え方を結びつける工夫として、従業員も登場するブランディング動画を制作したほか、各拠点の朝礼などでの経営トップからの説明や、取引先向けの説明会開催の機会を設けました。「エシカルスチール」の意義を繰り返し伝えることで、ブランディング活動が特別な取組ではなく、日々の仕事の延長線上にある価値であることを少しずつ浸透させ、社内の意識変化につなげています。
2025年より、本格的に販売がスタートした「エシカルスチール」
廃棄物を処理しながら製造した「エシカルスチール」は、通常の製品と品質も性能も変わりません。2025年から本格的に全拠点で販売がスタートし、現時点で数件の建築物件に納入、または納入予定です。医療・産業廃棄物などを処理しながら生まれた鉄が、建物や社会インフラとして再び人々の暮らしを支えています。
地球の平和を守るヒーロー「ウルトラマン」を起用したブランディング
エシカルスチールをより多くの方に知っていただくため、イメージキャラクターとして「ウルトラマン」を起用しました。ウルトラマンは、長年にわたり地球の平和を守り続けてきた世代を超えて親しまれているヒーローです。当社も、1988年から鉄づくりと環境リサイクルを両立させた資源循環型の事業に取り組み、時代ごとに現れる難処理廃棄物の課題に向き合ってきました。この事業に携わってきた私たちも地球の未来を守り続けてきたもうひとりのヒーローであるという思いが込められています(※)。
※ウルトラマンを用いたウェブサイト特設ページ
(https://www.kyoeisteel.co.jp/ethicalsteel/ultraman/)
特設サイトでも分かりやすくエシカルスチールを紹介
環境負荷の小さい鉄づくりをもっと多くの方々に知ってほしい
一般の方からの反応は概ね好意的です。電炉業そのものがあまり知られていない中、「環境負荷の小さい鉄づくりがあったことを初めて知った」「廃棄物を処理しながら建材が作られることに驚いた」といった声をいただいており、理解が進んでいると思います。今後もエシカルスチールに関する広報活動を継続し、環境配慮型の鉄づくりを社会に広く浸透させていきたいと考えています。企業活動の裏側にある“見えにくい努力”を、共感をもって知っていただくことが、持続可能な社会の実現につながると信じています。
私にとってのエシカル消費:「商品やサービスの背景にある環境や社会への影響に目を向け、自分の選択が社会の未来につながっていることを意識する行動」
一般消費者の方には、特別なことをする必要はなく、「長く使えるものを選ぶ」「環境や人に配慮した取組を行う企業を応援する」といった小さな選択を大事にしてほしいです。その積み重ねが、持続可能な社会をつくる力になると考えています。
共英製鋼株式会社は、電気炉を用いて鉄スクラップを再資源化し、鉄鋼製品を製造する電炉メーカーです。建物解体材や廃車などを原料とした資源循環型のものづくりを強みとし、1988年からは医療廃棄物をはじめとする難処理廃棄物のリサイクルにも取り組んできました。鉄づくりを通じて、環境負荷低減と社会課題の解決に貢献しています。