#海洋プラスチック、#漁業系プラスチックごみ、#漁具リサイクル、#漁具アップサイクル
海のごみ問題は、決して“誰かだけ”の責任ではありません。日本由来の海洋プラスチックごみの約95%は陸上由来とされ、私たちの暮らしとも深くつながっています。海岸で目にすることも多い、漂着した漁網やブイなどの漁業系プラスチックごみは体積が大きく目立ちますが、日本の漁業に由来するごみは実は全体のごく僅かです。それでも漁業者は、自らが排出したとは限らない海ごみを日々回収するとともに、使用済み漁具のリサイクルに取り組んでいます。漁業系プラスチックごみの現状について、海洋・海岸の環境保全に取り組む「公益財団法人海と渚環境美化・油濁対策機構」の坂本専務と、漁具のリサイクル活動に本格的に参入する「一般社団法人大日本水産会」の髙瀨専務のお二人に伺いました。
――まずは、漁業における海洋プラスチックごみの現状について、教えてください。
坂本:日本由来の海洋プラスチックごみの総量は、海外の研究者からは最大6万t、環境省の推計では3万t前後という数字が出ていますが、そのうち漁業系由来プラスチックごみは、私どもの調査では年間2,000t前後、すなわち、全体の3~6%ということになります。つまり、日本由来の海洋プラスチックごみは陸上由来が95%前後を占めている点は意外に思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
漁業系のプラスチックごみを多く感じる理由はいくつかありますが、まず、ネットやロープ、ブイやフロートといったごみは海岸でよく目立つということがあります。さらに、比較的浮きやすい特性を持つため、海岸に漂着しやすくなります。一方、陸から出るプラスチックごみのほとんど(95%)は海底に沈みます。さらに言えば、網は農業や園芸でも、ロープは土木から一般家庭まで、フロートやブイは船舶や港湾でも使われています。それにもかかわらず、海岸に流れ着くと、漁具ではないロープや網でも、その全てが漁具と認識・分類されている問題もあります。
――海洋プラスチックごみの漁業への影響や、漁業者の取組はいかがでしょうか。
坂本:ごみがあると漁船の航行や冷却機能にも影響を及ぼします。網で引き上げる際に魚などにも傷がついてしまうこともあり、結果として、魚の商品価値を大きく損ないます。漁業者は海洋プラスチックごみによる負の影響を多大に受けています。海岸のごみ拾いの活動(海浜清掃)に参加する人の2割は漁業者です。日本の漁業関係者は、現在約10万人で日本の人口の1000分の1程度に過ぎません。それにもかかわらず、海浜清掃に参加する人の20%が漁業者って、すごいと思いませんか。
髙瀨:より深刻なのは絶対量の多い海底に沈んだごみです。刺し網、底引き網のように海底まで網が届く漁業は、大量のプラスチックごみが網に入ってきます。自分たちが排出したとは限らないそれらのごみを、漁業者がコストを負担して処分しています。
坂本:海底のごみを回収できるのは、底引き網のように海底をさらうことができる道具や機材を持っている漁業者だけです。その点、香川県は先進的な取組を15年ほど続けています。県と市町村がタッグを組んで、漁業者が海から持ち帰ったごみの処分費用を捻出しています。海に面していない市町村も処理費用を負担し、県がイニシアティブをとって全県的な取組にしています。
海洋プラスチックごみを減らすには、陸上の受け入れ体制と、それをバックアップできるだけの経済的な担保が必要です。プラスチックごみを回収した漁業者に対して「あとは任せて」と言える仕組みができれば、全国に広がっていくでしょう。なお、環境省は漁業者が回収した海洋ごみの処分費用について自治体を支援しています。
――使用済み漁具のリサイクルについて伺います。ポリエステル製漁網のリサイクルを推進する多角的企業連携TEAM リズム(Re:ism)を、この春から大日本水産会が引き継ぎます。
髙瀨:Re:ismの特長は2点あります。1点目は、繊維メーカー、漁網製造メーカーが立ち上げている点です。メーカーの有償回収が義務づけられている家電のように、製造者の社会的責任が出発点になっています。2点目は、川上から川下までさまざまな関係者がチームになって取り組んでいる点です。2019年に、繊維メーカー、漁網製造メーカーがプロジェクトを立ち上げました。翌年には5社に増えてTEAM リズム(Re:ism)として発足し、2021年には大阪・関西万博に「共創チャレンジTEAM EXPO2025」として参加することが決まって、参加企業・団体は50社近くまで増えました。万博閉幕後は、当会が引き継いでさらに進めていくことになりました。
――使い終わった漁網はどのようなものに生まれ変わっているのでしょうか。
髙瀨:かっぱのような雨具、サングラスや帽子などのアパレル系製品の一部に生まれ変わっています。漁網リサイクルは海外、特にヨーロッパではかなり進んでいて、洋服やバッグ、靴などにアップサイクルしています。
日本で漁網のアップサイクルが進みにくかった背景には、素材の違いがあります。海外では再利用しやすく、リサイクル素材としても比較的高値で取引できるナイロン製が主流ですが、日本ではポリエステル製が多く使われています。漁網として使われたポリエステルはリサイクルの手間やコストがかかるため、採算を取りにくい素材です。一方で、日本で広く使われてきたのは、価格が安く、沈みやすく、日本の船舶などに合う小さいサイズにできて扱いやすいといった漁業上の利点があるためです。
――漁網から漁網へのリサイクルも可能なのでしょうか。
髙瀨:ポリエステル漁網からポリエステルだけを取り出して再資源化する技術は確立しており、「漁網 to 漁網」も技術的には実現しています。しかし、実装に至るまでには課題を抱えています。
大型のまき網漁業では、漁網の買い替えに億単位の費用がかかります。さらにリサイクル漁網は新品の約2倍のコストとなるため、現状では再利用より産業廃棄物として処分するほうが安く、本格的に導入している漁業者はいません。価格が高くなるのは、漁網のリサイクル拠点への運搬、洗浄・分別などに手間と費用がかかるためです。今後は、こうしたコストを社会も支えていき、リサイクル漁網を使用した経営が成り立つ仕組みづくりが課題です。
――漁網リサイクル推進の一環として、認証制度を考えていらっしゃるそうですね。
髙瀨:漁網リサイクルに取り組む事業者の製品に認証シールを貼って、消費者の方々にアピールをしていきたいと考えています。最終的にはリサイクル漁網で獲った水産物の認証まで考えています。エコラベルに近い考え方です。「海のエコラベル(MSC、ASC)」は、持続可能な漁業で獲られたり養殖されたりした水産物を認証します。しかし、そういった水産物は、適正価格という観点で割高になります。長い目で見て水産業を支える価格と理解した上で消費してもらえるように、消費者の理解も促しながら認証制度を進めていきたいと考えています。
――最後に、消費者の方々へのメッセージをお願いします。
坂本:魚を獲る、もしくは養殖するにあたって、世界平均では大体1tあたり7kgの漁業系プラスチックごみが海に流出していると言われています。日本はその10分の1程度で、日本の漁業者はごみを出さない努力をしていることが分かります。日本産の水産物を買う選択は、日本の漁業者の収入増にも、さらったごみを持ち帰るインセンティブにもつながります。ぜひ、そのような観点からも、日本のお魚を選んでみてください。
髙瀨:水産業は、生産、加工、流通、消費のサイクルをうまく回していくことが重要です。そのためには、適正な価格を消費者の方々に受け入れていただいて、漁業者の生産に再びつながるという部分が非常に重要です。水産物の価格の背景、消費に至るまでの間のさまざまな取組を理解していただけるとありがたいです。
当機構は、海と渚の環境美化、水産資源の保護その他の海洋・海岸環境の保全整備を推進し、「青く豊かな海・美しい浜辺」の保全、保存、整備、活用を図るとともに、船舶、工場等からの流出油による漁場油濁の拡大防止と漁場清掃の推進及び原因者が不明の漁業被害の救済を行うことにより、被害漁業者の迅速な救済と漁場の保全を図り、もって国民の福祉の増進及び漁業経営の安定に資し、併せて水産業の振興に寄与することを目的としています。
国民に安全で安心な水産物を、安定的に供給し、国民生活の安定と向上に寄与するため、水産業の振興を図ることを目的に活動している団体です。
重要だと考えているのは、「持続的な水産業」です。近年、地球温暖化や海洋環境の変化により漁場環境の持続性が危ぶまれています。
水産業は海洋環境に大きく影響を受ける産業ですが、海洋環境に影響を与える側面もあります。水産業界として地球環境問題に真剣に取り組んでいかなければならないと考えています。